正月特訓開始
年が明けるころ、街はお正月ムードに包まれていた。どの家にも門松が立ち、近所の子どもたちが晴れ着を着て神社へ向かう姿が見られた。
しかし、吾郎のスケジュールには「正月休み」という文字はなかった。
「1月が勝負や。ここからのひと伸びが、合格を左右する」
12月最後の志望校別特訓でそう告げられてから、吾郎は決意していた。「お正月は塾に行く」と。
浜学園の正月特訓は、元日から3日間。
午前9時から夕方5時まで、志望校の傾向に特化した問題を解き続ける集中特訓だ。
内容は過去問のアレンジや、合格者の得点帯を狙う応用問題が中心で、いわば最後の総仕上げに向けた戦場のような空気だった。
元日の朝。
ふつうなら、家族でおせちを囲む時間帯に、吾郎は母の握ってくれた弁当をリュックに詰め、朝早くから塾へと向かっていた。
電車の中は、初詣へ向かう人が多かった。
塾に着くと、既に多くの生徒が集まっていた。みんな、志望校が違えども、この冬の短い時間で何かをつかもうと目を光らせていた。
そして、ぞろぞろと塾の中に子どもたちが入って行った。
元旦から3日間、朝から晩まで吾郎は塾にいる。
特別な正月三が日だ。
特訓の終了
3日間の正月特訓が終了した。
すべての日でテストがあり、全ての日で合格、不合格が言われる。
怒涛の3日間が終了した。
「……疲れた」
たった一言。
最終日は父親が遠くのまで迎えに来てくれていた。
私は吾郎に「テスト、どうやった?」と聞いた。
「死んだ」
元気がない。
「算数、20点台やった……」
一瞬、耳を疑った。
20点台?
不安が一気に押し寄せた。
この三日間すべてで点数が悪く、全てで不合格判定という厳しい現実。
しかも最終日に至っては算数20点台。
やはり本当の実力がついてなかったんだと再確認させられた。
翌日、冬期講習で、浜学園の算数の先生に、この状況を吾郎は相談したらしい。
「みんな悪かったから気にすることではない」と言われたようだ。
それを言われ吾郎は、元気を取り戻した。
先生の励ましの言葉は絶大だ。
お正月返上で過ごした3日間。それはただの勉強漬けの日々ではなく、確実に吾郎が成長したように思う。
1月の入試本番は、もうすぐそこまで来ていた。


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