受験初日を迎えるにあたり
1月中旬。
いよいよこの日を迎えた。
受験日の朝、私と夫は自然に目を覚ました。
いよいよこの日が来たと、朝からお互い落ち着かない。
午前中に最難関校を受け、終われば車内で昼食を食べながら移動。
午後からの安全校に挑むというハードなスケジュール。
多くの受験する小学6年生がやっていることだが、すごいことだと思い、胸の中がじんわりと熱くなった。
初日で合格を勝ち取りたいと夫婦で話していた。
合否判定模試では、合格と不合格が五分五分。
初日に何としても合格を勝ち取れば、勢いに乗っていけると思っていた。
初日の朝
いつもの朝と変わらないようにと、いつも通りの朝ごはんを用意。
そして吾郎を起こしに行った。
朝起きた姿を見て吾郎は元気そうだ。
どこか緊張しているようでもある。
さあいよいよスタートだと思われるなんとも言えない緊張感が朝から漂っていた。
特段それをわざわざ口にもしない。
6時半ころ、吾郎を乗せ、私と夫と吾郎で、受験会場へと向かう。
車内での吾郎の様子は「緊張する~」と言いながら、少しワクワクしているように見えた。
私たちは、遅刻は許されないと思い早めに出たが、土曜日の朝ということもあり案の定早めに到着した。
浜学園では、受験日当日、ミニ講義が行われる。
「さあ、行こう」と言い車を降り、会場へ向かった。
と、ここで思わむトラブルが発生してしまう。
吾郎の後ろを歩いていると、ズボンのお尻の辺りが濡れている。
”ん?”と思い吾郎の後ろに回ると、リュックに入れていた水筒のお茶が漏れているのだ!
リュック、ズボン、靴、靴下、これらが全部びしょ濡れ。
ええ?うそ?こんな時に???
まさに試練。頭の中が真っ白になった。
こうなってはもはやミニ講義どころではない。
先生や事務の方総出で、ドライヤーを使って、服を靴を乾かしながら、同時並行で、吾郎はミニ講義を受けられない分の臨時講習を個別に吾郎に行ってくれたのだ。
講義時間は短かったが、その気持ちがうれしかった。
また、「予備あるので、貸しましょうか?」と言ってくださる受験生の親御さんまで。
断りはしたが、人の優しさに触れ、私自身涙ぐんでしまった。
このような状況のなか、当然、服や靴はすぐに乾くはずはない。
ある程度、乾かした段階で、父親が待つ車の中へ。
車で夫に事情を説明し、車内の暖房をガンガンにし、服、靴下、靴を急いで乾かしたところ、なんとか、乾いた。
なんとか、通常運転で試験に挑めそうだ。
初日午前試験突入。
よく「絶対合格するぞー」と言いながら受験生と先生がこぶしを突き上げる様子をテレビなどで見たことあるが、我が子はそれをやることなく、受験会場へと向かい、ほどなくして到着した。
普段は立ち入ることのないその門をくぐる時、私の方が緊張した。
受験生に受験生の両親、また塾関係者など、校門前は人でごったがえしていた。
「じゃあ、行ってくるね」
その声は小さかったけれど、確かにまっすぐだった。
私は「行ってらっしゃい」とだけ言った。
私は一度車に戻り、近くのカフェで時間をつぶすことにした。私の手元には、お弁当と次の受験校の受験票がある。
朝から何度も中身を確認してきたが、何度も確認した。
夫と談笑しながら時間をつぶし、試験時間終了前に校門の前に行き、吾郎の出を待った。
校門前にはすでに多くの保護者たちが集まり、我が子の姿を今か今かと待っていた。
やがて、校舎からぞろぞろと受験生たちが出てきた。
その中に、私は思わず手を振った。
彼はこちらに気づき、元気そうに歩み寄ってきた。
手応えがあったのかなと思わせる感じだ。
私は「どうだった?」と聞かないことにしていた。
それは次の試験に向けてすぐに心を切り替えて欲しかったからだ。
ただ、聞いてもいないのに、吾郎は「めちゃ難しかった。特に算数はサッパリわからん」と手ごたえが全くなかったようだ。
それにしては、明るい。
彼の心の中は定かではないが「そうか。」「まあ、次々」と心を切り替えるための声掛けをした。
車に乗り込んでからの吾郎は、お弁当を開けて、「あ、卵焼き入ってる」とうれしそうに笑う。
夫が運転席から、「おつかれさん」と声をかけると、「うん」と答えた。
初日。午後試験突入。
さあ、午後からの受験。
ここにも浜学園の職員さんは来ていた。
一人一人に声を掛け心を落ち着かせてくれる。
安全校と言えど、初日の午前に吾郎と同じ学校を受けた子も、多くがこの学校を併願しており、油断はできないと浜学園のお世話係さんからは、言われている。
この学校も「過去問を2年分くらいはやるように」と言われていたが、時間がなく、過去問を一度も解かずに受験本番に挑む。
そして、そのまま受験会場へと向かった。
この時点では、親も本人でさえも、”この学校は大丈夫だろう”と思っていた。
それよりは、午前の試験”みんな点数を取れていませんように”祈っていた。
——試験中は、食堂に通され、そこで時間をつぶした——
試験時間終了。
私は吾郎を出待ちした。
とぼとぼと周り子と比べても身長が低い吾郎が出てきた。
第一声「算数ゲロむずい。全く解けへんかった。めっちゃ悪いと思う」
まさかまさかの第一声であった。
「できた」とまでは行かないまでも、「まあまあ」くらいは言ってくれると思っていた。
予定外だ。
吾郎に掛ける言葉も難しい。
自分自身にも言い聞かせるように「大丈夫」と伝える。
言葉少なに帰路についた。
帰宅後、吾郎を早く寝かせた。
そこまで元気がないわけでもないが、内心おだやかではないと推察できた。
ここで夫婦会議。
以前、話し合ったように、初日の手ごたえがなければ「W出願したうちの、安全校を受験する」こととなる。
はずだった。
しかし、夫が「ここで、チャレンジせずに受けなかったら、後悔が残りそうだ」と言ったのだ。
私も同じ思いだが、やはり、落ちたらと思うと怖い。
が、夫の意思は固い。
吾郎は安全校を受けると思い寝ているが、明日は最難関校をチャレンジすることに親が勝手に決めた。
吾郎は、それを明日の朝知ることになる。



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