
【第29話】最後の追い込み 正月特訓
<!-- wp:paragraph --><p>年が明けるころ、街はお正月ムードに包まれていた。どの家にも門松が立ち、近所の子どもたちが晴れ着を着て神社へ向かう姿が見られた。</p><!-- /wp:paragraph --><!-- wp:paragraph --><p>しかし、吾郎のスケジュールには「正月休み」という文字はなかった。</p><!-- /wp:paragraph --><!-- wp:paragraph --><p>「1月が勝負や。ここからのひと伸びが、合格を左右する」</p><!-- /wp:paragraph --><!-- wp:paragraph --><p>12月最後の志望校別特訓でそう告げられてから、吾郎は決意していた。「お正月は塾に行く」と。</p><!-- /wp:paragraph --><!-- wp:paragraph --><p>浜学園の正月特訓は、元日から3日間。午前9時から夕方5時まで、志望校の傾向に特化した問題を解き続ける集中特訓だ。内容は過去問のアレンジや、合格者の得点帯を狙う応用問題が中心で、いわば最後の総仕上げに向けた戦場のような空気だった。</p><!-- /wp:paragraph --><!-- wp:paragraph --><p>元日の朝。</p><!-- /wp:paragraph --><!-- wp:paragraph --><p>ふつうなら、家族でおせちを囲む時間帯に、吾郎は母の握ってくれたおにぎりをリュックに詰め、まだ薄暗い道を駅へと向かっていた。</p><!-- /wp:paragraph -->